2025年6月1日日曜日

稲又谷

早川町雨畑の稲又谷に行ってきました。南アルプス白根南稜が源流の沢です。雨畑川の最大支流でとてつもない量の土砂を流出している沢です。たどり着く主稜線の向こうは静岡県の大井川です。その主稜線の所ノ沢越を目指しての入渓でした。写真は稲又谷に入ってすぐに登場する稲又第三砂防堰堤です。国内最大級の堰堤の高さは50mで、パリの凱旋門と同じ高さに該当します。ビルの高さで言えばだいたい20階建て相当です。


白根南稜の向こうの大井川には椹島があります。南アルプス南部登山のベースになるところですが、もともと椹島は林業の基地でした。むかし椹島へ物資を運ぶのに使われていた道があり「紙料道」と呼ばれていました。雨畑―所ノ沢(西沢峠)ー中ノ宿ー椹島という行程で、大正から昭和の初め頃まで使われていたようです。大井川源流は東海フォレストの社有林です。東海フォレストの前社名は東海パルプ、その前は東海紙料という社名でした。紙料道はその紙料です。


布引山から延びるフトオノ尾根南斜面につけられていたという「紙料道」。今回は稲又谷を遡行して所ノ沢越下まで行き、そこから峠への最後の道形を探そうという考えでした。写真は支流の八汐沢出合です。


下から見上げた「八潮崩れ」。南アルプス全域を代表するような大規模崩壊地です。標高差700m、幅 400m 前後の規模で大断層糸魚川-静岡構造線が通ります。


ここまでの稲又谷の川床の石は砂岩・粘板岩の細かな石が主で、まるで八潮崩れからの土砂で滝などが埋め尽くされている印象でした。八汐沢左岸の高台から見下ろした八汐沢のようす。


二俣。左が稲又谷本谷で青薙山方面に行きます。右が西沢で、今回は西沢を詰めて最後に所ノ沢越に登るわけです。


西沢に入ると普通の沢になる印象です。小さな滝や瀞などが巨岩の間に登場するという感じです。稲又谷は八汐沢の下流と上流では全く違うということです。


右の草付きから越えた5mくらいの滝。


西沢の最後には布引崩れという崩壊地があるのですが、崩壊地までは土砂の堆積が少ない普通の沢の印象だったので崩壊地も安定しているのかもしれません。八潮崩れとの比較です。


いちばん大きな13m直瀑。ロープを出して左岸を越えました。


湿った側壁にはシナノコザクラがたくさん咲いていました。


八潮崩れ


西沢上流を見て、所ノ沢越方面から流れてくる枝沢の流れが左です。ここが今回の目的の場所です。紙料道の詳細な地図はありませんが、フトオノ尾根の山腹を登ってきて所ノ沢越に行くとしたら、西沢のこの1650m周辺で沢を渡るはずなので道を見つけられるはずだとにらみました。


満開のオオカメノキ。


詳細な地図はない紙料道ですが、いくつかあった資料の中のひとつ、大正時代の紀行文、大正15年(1926年)田島勝太郎 著 昭文堂『山行記』 の中の『黄蓮の香』、~晩秋の七面山と笊ヶ嶽~(サブタイトル)という項の中に紙料道は登場していました。何年かはわかりませんが、11月21~30日、10日間の山行です。富士宮-天子ヶ嶽-身延山-赤沢村-七面山-雨畑-所ノ沢越-笊ヶ嶽-雨畑-湯島-西山温泉-鰍沢
「水を渡ると、岩石中に小さな場所を開いて荷物仲継所の建築中であつた。此處から峠になるのでこの必要があるわけだ。」という『山行記』の文中にあった中継所の石積みがありました。


峠への電光石火の道が始まると書かれていましたがよくわからなかったので、下流側を探っていたら咲いていたホテイラン。


今回発見した紙料道の一部。紙料道はありました。ここから雨畑本村に向けて望月沢や上兵部沢などの大きな支流をまたいで下り基調であった紙料道です。いくつかの資料になかには、所ノ沢越から雨畑本村まで3~4時間で下っている記録が多いのでそれなりに歩きやすい道だったのだろうと思います。


中継所石積みに戻る途中で出会ったホテイランの三姉妹。


所ノ沢越(西沢峠)。所ノ沢は大井川の支流なのでこれは静岡側の名前ですが、山梨側は西沢の乗越なので西沢峠と呼んでいました。中継所石積みから峠への道形は見つけられませんでした。それでも予定通り稲又谷から所ノ沢越に着いた時はホッとしました。


収穫のタイミングがちょっと早かったのですが、春を味わいたくてコシアブラとウインナーを炒めました。


所ノ沢越から10分くらい大井川側に下ったテント場。ここにも往時には小屋があったことでしょう。確実に水が得られる場所は貴重です。


翌日は布引山に登って笊ヶ岳の老平の一般道を下りました。布引山の急登の途中から見えた布引崩れ。


稲又谷西沢を見下ろします。奥に八潮崩れが見え、続く尾根のピークが青笹山です。手前は布引崩れのふち。


残雪のコル布引山山頂。


布引山山頂の西側は展望のためにシラビソが切られていました。


フトオノ尾根のポイントは新しめのトラロープが張られていました。尾根はまっすぐ続いていますが、ここで左に折れ枝尾根を檜横手に下るので、まっすぐ行ってはいけないよという意味です。


ヤマイワカガミがきれいでした。


奥沢谷の広河原の渡渉点


広河原から老平までの簡単ではない登山道はいつも通りという感じでした。


老平に着きました。

 

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