2015年9月3日木曜日

悪沢岳レスキュー

先日の話です。タイトルは少しオーバーな気はしますが、山ではこんなことにも出くわします。写真は悪沢岳と荒川中岳のコルに向かう登山道です。
僕らは悪沢岳の山頂でお昼にするところでした。お湯を沸かしてフリーズドライの味噌汁にお湯を注ごうとしたとき、「滑落事故です!なんとかなりませんか!」という登山者のお言葉。何が出来るかわからないけど、とにかく現場に行ってみることにしました。


10分くらいで現場到着。小さな岩稜のテラスにうずくまった登山者がいました。71歳の男性。寒気を訴えていたのでとりあえずツエルトで覆いました。その間に両手両足をチェックして骨折の有無を確認。手足が動かせるようでした。生年月日と住所なんかを聞きました。意識はしっかりしていました。血だらけの顔面は出血が止まっていました。


通りかかった登山者みんなが、何が出来るだろうと考えたのだと思います。山頂に助けを求めた登山者、中岳避難小屋に救助を求めた登山者。かろうじて電波が通じたので(docomo)警察に電話をした登山者。なんとなく聞こえてきた情報で、ヘリコプターが出動したんだろうと想像できました。周りは岩場なので広めの登山道に移動しなければスムーズにヘリコプター救助が出来ないと考えました。急斜面の草付きにステップを刻んで、トラバースできる準備。男性をサポート、前後と下(バランスをくずした時に支える)に人を配置。何とか登山道まで移動して、しっかりツエルトでくるみました。寒気を訴えるというのはどこかやられているだろうとは思いました。急傾斜の草付きでザック搬送や背負い搬送ということは難しいとも思いました。手足がやられていないのなら、頑張ってもらってと思い移動しました。常に声掛けをしました。ツエルトでくるまれた後、とても暖かいと言っていました。僕らのお昼の味噌汁に使われるはずだったテルモスのお湯を何杯か飲んだようです。


背負っていたザックのことを気にしていました。車の鍵や財布、携帯が入っていたというので、そりゃ気になります。意識はしっかりしていたのでした。傷病者は他の人に任せ、ザック探しに出かけました。ハイマツの茂みの中や、滑落したくぼみのホールラインの沢筋なんかをくまなく探しましたが、見つかりませんでした。


ヘリコプターの音が聞こえました。いちばん目立ちそうな色の服をぐるぐる振ってもらいました。こちらからヘリコプターはよくわかりますが、上空からはわかりにくいと思ったからでした。


これは詳しいことはわからないのですが、一度近づいたとき、「燃料が満タンなのでまだ引き上げられない」みたいなことを放送して立ち去りました。想像ですが、なるべく長くフライトするために満タンでスタートするのでしょうか。そのままだと重量オーバーになってしまうということでしょうか。赤石岳の方を一回りして、戻ってきたらホイストで救助隊員を下しました。ツエルトでおおわれた傷病者はすぐに確認できたのだと思います。黄色の大きな塊でしたから。こんな場合もあるので、ツエルトのサイズや色は大事な要素だと思いました。


曇りがちでガスが早くから上がった日だったのに、レスキューの前後はあざやかな青空だったのもスムーズな引き渡しにつながったのだと思います。


 そして引き上げられていきました。


あとで聞いた情報だと、静岡市内の病院に運ばれた関西出身の男性は、腰を骨折していたそうです。程度はわかりません。回復してまた山登りをしてもらいたいと思いました。

男性は結構な登山歴がある方だと聞きました。連れがいたのでした。あくまで想像ですが、山のことをよく知った方だったのでしょう。71歳という年齢。昔の自分と今の自分の体力のギャップをご自身が受け入れていなかったのだと思います。
連れの方の話だと、山行計画自体もあやうい感じでした。お二人とも悪沢岳から赤石岳のコースは初めてということでした。2泊3日を念頭にして椹島スタート。千枚小屋に泊まり、2日目の事故。事故がなかったら、もし歩けなかったらもう1、2泊するつもりだったようです。そして連れの方は男性にまさしく連れてきてもらったという形でした。このエリアの知識がほとんどありませんでした。男性がヘリコプターに収容された後、自分がどうしたらいいかわからないということでした。初めはなんと、赤石岳方面に行くような感じでした。そちらだとまともに歩けても静岡市内に出られるのは3日後です。強い感じで説教をするように「山行は中止という認識でいてください!今あなたがやらなければならないのは、まず自分自身が山を下りること。次は病院に収容された男性に会うこと。一人で行動できないのであれば、僕らについてきてください。」本当はかなりきつく言った記憶です。幸いほかのメンバーが優しい山男だったのでフォローしてくれました。その日のうちに椹島に下山して、翌日のお昼には静岡市内に到着したと思います。


このレスキューのことから確信を持ったことがあります。荒川赤石の縦走は人気コースです。だいたい7割の登山者が、反時計回りで縦走します。僕は以前から時計回りで縦走すべきといっています。急傾斜の危険が潜む斜面をほぼすべて登りで使えるからです。

写真は別の時に荒川赤石と回った時のものです。反時計回りです。千枚岳、悪沢岳、荒川中岳、荒川前岳、小赤石岳、赤石岳と縦走しました。赤石のカール下の急傾斜のところです。


下の写真は、今回のレスキューの現場。荒川中岳を過ぎて悪沢岳の斜面です。


悪沢岳、丸山を過ぎて千枚岳の登り(この時は下ってます。反時計回りでした。)技術的にはここが最も厳しいところです。この時は雨も降っていたのでロープを出しました。


 同じところを登る時の難しさと下る時の難しさを比較すると、はるかに下りの方が厳しいです。単純にいかないのは、天候とか疲労とかの要素が加わるからです。だからきびしい傾斜や岩場は登りで使った方がいいのです。今回の男性も悪沢岳の下りでのアクシデントです。
日本で6番目に高い悪沢岳、7番目に高い赤石岳。ここの縦走は時計回りの方が安全です。

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