尾白川渓谷道というのは黒戸尾根ではなく、尾白の渓谷沿いに作られた黒戸尾根の五合目に行く登山道でした。竹宇の駒ケ岳神社から尾白の渓谷沿いに、幾多の滝を越えて、本谷から黄蓮谷に入って千丈の滝の右岸の巻き道から左の尾根に取り付いて、五合目に達していたそうです。
というのもこの渓谷道、大正10年(1921年)に完成して、昭和34年(1958年)の大水害でズタズタになって、もう修復されることなく今日に至っているからです。とは言っても、駒ケ岳神社から不動の滝までは、今でも遊歩道として整備されて、人気のハイキングコースです。
不動滝から先は完全に沢登りの世界です。源流に向かうそれぞれの沢のルートはそれなりなのですが、不動滝から先の、矢立石-錦滝-林道終点から尾白に下った地点と不動滝の間が非常に悪い!不動滝を巻いて尾白川沿いに沢筋を行く方は覚悟して行った方がいいです。下手したら、あの短い区間に丸一日かかってしまうかもしれません・・・
というわけで、普通は矢立石からの林道の終点から入渓するのが、尾白川の登り方です。
林道から尾白川に降りたってから黄蓮谷出合までも、エメラルドグリーンの釜を持った滝や気持ちのいいナメがたくさんあります。下から名前のある滝は、女夫ノ滝、遠見ノ滝、噴水ノ滝、三丈ノ滝、唸滝、千丈ノ滝・・・花崗岩の滝だらけです。だいたいは登れないので高巻きなのですが、それもルートファインディングが簡単ではなかったりします。
五丈石と古屋義成さんのレリーフ
黒戸尾根を下りてきて、五合の小屋の跡地に着いたのがもう4時半。黄蓮谷に突っ込みました。
五合の小屋跡から旧尾白川渓谷道は右の尾根をトラバース気味に下ります。左の五丈ノ沢(黄蓮谷の支流)を意識して下ればよかったのですが、右に寄りすぎました。そのため、白稜の岩小屋を確認できませんでした。白稜の岩小屋は僕の知っている岩小屋の中でも白眉の一つ!10人以上泊れます!黄蓮谷を登っていくと千丈の滝が出てきたら左から巻きますが、その巻き道も旧尾白渓谷道で、そのまま尾根を登って五合目。千丈の滝からちょっと行くと白稜の岩小屋はあります。まだ明るかったのに千丈ノ滝を確認しないままの河原到着でした。
どんどん下ります。こんなナメの横も走ってました!ヘッデンを出す前に少しでも下りたかったからです。記憶なんて曖昧なもので、こんなきれいなナメがあったっけ?などと思いながら・・・
黄蓮谷出合の滝は右岸に巻き道が付いていて、トラロープがフィックスされています。
本谷に入って最初の釜を持った滝です。こんな感じのやつがいくつか出てきますがどう処理するかが問題です。沢を巻く場合よく言われるのが‘小さく巻け!’ですが、ここの滝は水の流れの左右は傾斜がなくてもツルツルなので登れない事が多いです。左右の樹林帯から巻きます。本谷は右岸に巻き道が付いていることが多く、たいがいフィックスがあります。トラロープですが。巻きを小さくという理由は、楽な方へ楽な方へと流されると別な課題が出てきてしまうからです。樹林帯の中と言ってもただ木が生えているわけではなく、岩が出てきます。傾斜がなければ木も濃く楽ですが、急なところですと、草付きのバンドや草木を利用します。滝は傾斜が強いから滝になるわけで、その横だから当然急です。本流の流れを意識しながら、どこで戻るかが巻きでは大事になります。
三丈ノ滝を下ったところでヘッドランプを出しました。花崗岩の明るい沢身はまだ行けましたが、巻きの樹林帯は真っ暗ですから。ヘッデンつけて沢登り、沢下り!?なんて初めてしましたが、スゲー危険です!
ヘッデンで照らされたピンポイントしかわからない中で、あとは勘でした。ロープを持つかどうか迷ったスタート時でしたが、ないよりはましだろうと持った8mm×15m。懸垂できる距離は7.5m。持ってて正解でした。5回は懸垂したかな?
ふと遭難した人の事を想像したりしました。
単独で、道迷いして、沢に下っちゃだめだと思いつつ尾根の藪に疲れ、とりあえず滝がなければ沢に入っちゃう気持ち。自分がどこにいるかも分からず、濡れて寒く、食糧もほとんどない。心細くて不安で、何かにすがりたい気持ちは漆喰の闇に吸い取られ、肉体的にも精神的にも限界はすぐ隣にいる・・・
僕はその真反対の状態でした。夜に用事がなければ、焚き火でもして泊りたい気分でした。ピンポイントでしか見えない世界で自分が何が出来るか。出来ることをスピーディーにこなすだけでした。月が出てたらな~などと思ったりしましたが、右に行ったり左に行ったりして、自分がどこら辺にいるのか考えながら、林道の登り口をロストしないように注意して下ります。
正直この小さなケルンを見たときはホッとしました。
結局、五合目から安全地帯の林道まで3時間かかってしまいました。
日帰りの山行を、タイプ別に3回に分けてアップしてみました。
0 件のコメント:
コメントを投稿